アリス・マンロー、「イラクサ」
筋萎縮性側索硬化症(ALS)って大変な病気だ。難病奇病の割には意外と他人
事ではない。例えばホーキング博士もそうやし、こないだと知事選問題の時に
話題になった人もそんな感じやし、けっこう近くにいてはる。わしの近くでも
昔、サラリーマン戦士、出生街道まっしぐらだった叔父がある日突然この病気
を宣告されて、数年の闘病のうちに若くして仕事からも人生からも退場してし
まった。
そういう病に犯されて、尊厳のある生の道が閉ざされたと自覚した男が尊厳あ
る死を選ぶという話から始まる短編集だ。
田舎の町に女が居た、若くもなく年寄りでもない。美人でもなく魅力的でもな
かった。ある日、町で唯一つのドレスショップに女がやってきた。特別の意味
がありそうなドレスを一着買った。なんとなく嬉しそうだ。聞けば遠くの町に
家具を送って、そこに暮らしに行くのだそうだ。男が1人待っているみたい。
知らない町、見たこともない男。男の手紙だけが頼りだ。
この手紙、ろくでもない不良娘達が勝手に書いたラブレターだった。果たして
この女どうなるのか。
とても仲の良い老夫婦がいた。穏やかで幸せな暮らしだ。しかし、妻の様子が
どうもおかしい。アルツハイマーに犯されているようだ。とうとう施設に入る。
夫は毎日のように見舞いに行く。優しく迎える妻。
ある日、妻は夫に嬉しそうに新しいボーイフレンドを紹介してくれた。
果たして夫はどうなるの?
よく珠玉のような短編集っていうのがある。美しい文章で美しい心象風景を書
き綴ったやつだ。
この短編集はそういうものではない。
もっとざらついたやつだ。
読んでいて不安にさせられる。ビターな気分を運んでくる。
それでもええなあって思う。そんな短編集だ。
佐川光晴、「鉄童の旅」
鉄道に乗るのは大好きやけど、わしは「鉄ちゃん」ではないと思っている。し
かしもしかしたらある部分「鉄ちゃん」的なんかもしれん。子どもの頃は、実
は今でもやけど、電車やバスに乗ったら一番前に乗るのが好きやった。窓の外
を流れる景色を見てたら殆ど退屈することはない。どっか知らんとこまで、電
車や渡し舟に乗って行ってしまったことがある。どうして無事に帰れたか今で
も不思議に思うことがある。
こんなわしよりもっともっと本物の「鉄ちゃん」がいて、「鉄ちゃん」暮らし
をしている。しかしこの男、何故自分が「鉄ちゃん」になったのか、わからな
い。どうやら子どもの頃に記憶喪失になったらしい。男は自分の過去を調べ始
める。そしてある日、自分の過去を知っている人と出会った。
それを手がかりに過去の自分を追う日が始まる。
ふとした事で、「鉄童日記」というのを手に入れた。自分が書いたノートだっ
た。
男の過去は?
男の人生は?
と言うようなお話。旅の話として読んでとても面白かった。
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ありがとうございました。